こんな恋の始まりは初めてだった。
突然すぎる。一瞬で恋に落ちたのは。
それにいままでの恋と何かが違う、気がする。
心臓がドキドキするってよりももう少し物静かに鼓動を打ってる。
そんな心臓とは裏腹に心の中は色々な感情で渦巻いててどうしようもない。
今すぐにでも気持ちを伝えて、抱きしめて欲しい。
名前を呼んで欲しい、笑って、好きって言って欲しい。
何これ、何これ何これ…。
「、さん?」
気がつくと上田…竜也さん…?が少し心配そうに私を見ていた。
「え、あ、すいません…。」
「?――…ここ座ってください」
「え?でもその…ほら、仕事中、だし」
「さっき外見てボーッとしてたでしょ?」
くす、ともう一回笑って向かいの椅子を指差した。
座って。上田さんは催促するように言った。
「はい…。」
「さんって何歳ですか?」
「22…ですけど」
「あ、結構年下だ。じゃあ敬語無しでいっか。」
「あ、はいどうぞ…。」
「じゃーちゃんで!」
再びにこりと笑って頬杖をついた。(とっても可愛い、なんて)
「ちゃんって本当にジャニーズとか知らないの?」
「はい…。興味が無いものは本当に知ろうとも思わない性格なんです。
だから友達がそういう話してても「なにそれ」って感じで。」
「さっぱりしてる性格だね」
「よく言われます。多分ジャニーズの方が目の前にいても気がつきませんよ。」
そういうと上田さんはあはは!と突然笑ってそうだねーと言った。
言った後におもむろに携帯を開いて少し操作した後画面を見せてくれた。
男の人が2人映っている。片方は上田さん。
「こいつわかる?」
「――…上田さんのお友達、私が知ってたら怖くないですか?」
「…見たこと無い??」
「…有名な方なんですか?」
「ははッ!ちゃんあの時から変わってないね。」
「え?」
「…覚えてない?」
「すいません…。前に話したことありましたか?」
「………秘密。」
唇に指を当ててにこり、と笑った上田さんは財布を取り出し珈琲代を手渡してきた。
「…もう、帰るんですか?」
「うん。この後予定が入ってるからね。」
「…また、来てくれますか?」
「もちろん。」
上田さんは立ち上がってドアへと進む。
開かれたドアのベルがまた控えめにちりん、と音を鳴らした。
「あ、」
小さく声を漏らし、振り返った上田さんの表情は心なしか楽しそうで、
「俺、7日後…誕生日なんだよね」
私の目を見つめてふわり、と笑った。
ちりん、もう一回ベルが鳴り、ドアが閉まった。
次第に上田さんの背中はだんだん遠くなって見えなくなった。
「…7日…後。」
『俺、7日後…誕生日なんだよね』
「10月…4日」
緩む頬に手を添えて、もう一度繰り返す。『10月4日』
その日が私の頭に刻み込まれた時、雲の隙間から大きな虹が見えた。
雨はもう降ってはいない。
差し込む光の眩しさに、暖かさに、心が安らいだ。
それと同時に上田さんの顔が浮かんだ。
愛 し い 。
そのときの私は純粋に何も無駄な事は考えることなく、恋をしていた。
ただひたすら、一途に想っていた。
思えばこのときが一番純粋に彼を好きでいられた。
思えばこのときが一番、彼を理解していなかった。
このときの私は目の前の大きな壁にも気がつかずに彼に手を伸ばそうとしていた。
―――…誕生日まで、あと7日。