うちの保健室の先生はちょっと…いや、かなり変わってる。てか、怖い…。


「ねえ、きいた?藤くんがこのまえ保健室に行ったらしいよ!やばいよね!」


「えっ、藤くんが?」


その名前にドキ、と胸が高鳴る。藤くん、勇気あるなあ…。

保健室に行ったら藤くんに会えるのかな?なんて思って、思考を中断した。

あんな先生がいるところ、絶対にいきたくない……!

それに、行ったとしても藤くんがいるなんて限らないし!

いたとしても、話せないし…な。


「(藤くん…、話したいな)」


無理だってわかってても、見てるだけじゃあ辛い、よ。








「、なんか顔赤くない?」


「え〜、そうかな?確かに朝から体調ちょっと悪いけど…」


「保健室行っちゃう〜?」


が楽しそうにくすくす笑う。(他人事だと思って…!)


「い、行かないよ!別に元気だし!」


「次体育だけど、大丈夫なの?」


「余裕だよ〜!バスケ好きだし出るもん!」


そこまで言うともそっか〜、なんて言って体育の用意を始める。

ちょっと頭がずきずきするけど、多分大丈夫、かな。


「〜!パスパス!」


「きゃー!おしい!!」


「シュートシュート!」


チームのみんなと騒ぎながらのバスケは、楽しいけどなんだか今日は疲れがたまる。

足もよく動かないし頭も痛いし、体もだるい。

はあ、と走るのをやめてコートの隅で息を整える。

…やっぱり休んだ方が良かったかなあ、なんて思っていると


「っ!あぶない!」


そんな声が聞こえて顔をあげたら、ボールが額に直撃した。


「いっ…―…、」


ボールが当たった瞬間目の前が真っ白になって、ぐらりと体が傾く。

倒れる、そう思って目をつぶったけど、丁度目の前まで来ていたの体に運よくもたれかかる態勢になった。

ボールを投げた誰かの謝る声が遠くに聞こえた。


「…、助かった〜…ありがと」


「ありがとじゃなくて!あんた超顔色悪いよ!やっぱり体育休んだ方がよかったんじゃん!」


「だね…、ごめん。保健室、いってくる」


「私もついてくよ!」


「や、いいよ。立ちくらみももう大丈夫。保健室、別に遠くないし」


体育を休まなかった自分がいけないんだし、迷惑掛けちゃいけない。

私はから離れて保健室に向かう。

あんなに行きたくなかった保健室だけどこんな状態だとすぐ行きたくなるなあ…。

壁に手をつきながら保健室までの道のりを歩く。

ああ、吐きそ。




「…失礼します、」


やっとついた保健室。

ドキドキしながら扉を開けたら、先生はいなかった。


「職員室、かな…?」


先生の不在に少しほっとしつつ、どうしようか考える。

職員室にいけばいるのかもしれないけど…だるいし今すぐ休みたい。

ベットで寝てて先生が帰ってきたら言えばいいかな…。

起きた後もいなかったら先生に会わずに戻れるかもなんて期待しながらベットに向かう。

それとも出張かもしれない。どっちにしろ今はもうベットにはいりたい。

保健室の先生が変わってから保健室に来る生徒は激減した(ってかいない)って聞いたから

誰もいないだろうと思って閉まっているカーテンを遠慮なく開ける。

と、そこにいたのは


「ふ、じ…くんッ?」


一瞬息がとまった。だって、私の目の前で寝てるのは、あの藤くんで…。

どうしよう、どうしよう!と焦ったけど、落ち着いて藤くんをじっと見てみる。

さらさらで綺麗な金髪…。やっぱり顔もかっこいいし寝顔も見とれるなあ…、

そう少し変態じみた事を思ってたらまた頭に酷い頭痛がして、頭を押さえる。


「…っ、」


目の前がぐらぐらする。ああも、たおれそう…。

ふら、と前のめりに倒れて、ベットに手を付く。

手を付いた拍子にギシっとベットが大きく軋んで「…ん、」―…藤くんが、目を覚ました。

目を覚ました藤くんと、前かがみになってる私の目が合う。(ち、かい…!)


「…あんた、誰?ってか…何してんの」


「えっ、あ…っ、その、具合悪くてベット使おうと思ったら藤くんがいて、
そしたら丁度立ちくらみしちゃって…!!!その…、ごめんなさい、!!!」


恥ずかしさで顔が真っ赤になってそうで、でも具合悪くて真っ青かもしれなくて、

いっぱいいっぱいな私は体をすぐに起こして隣のベットに行こうとした。


「じゃあここ使えよ」


「―…え、」


「具合悪いなら俺どくから、ここ使ったら」


「いいよ、!藤くん寝てたんだから、ッ」


「いいから、使えよ」


藤くんはベットからでて「ほら、」なんて言ってくれた。


「あ、りがとう…」


靴を脱いで恐る恐るベットに入る。

藤くんの温もりが残ってて、思わずきゅんとしてしまう。


「あんた顔相当真っ赤だから熱あるんじゃねえの?ちゃんと布団かぶっとけよ」


「は、はい……、(顔、そんなに赤いんだ、)」


「俺、まだいるからなんかあったら起こして」


そんな優しい言葉までかけてくれた藤くんは隣のベットに入っていった。

まだ寝るのかな、なんて思ったらすぐに寝息が聞こえてきて、思わず笑ってしまった。


「(―…藤くんと、話しちゃった)」


まだ熱い頬を押さえながら、ゆっくり目を閉じた。

藤くんが隣で寝てるなんて、…幸せだなあ。

そう思ってたら、眠りについていた。









「―…ん、」


目が覚めたら、だいぶ体調は楽になっていた。

外の騒がしさからすると昼休み、かな?

そう思っていたら保健室のドアが開いた。

先生かと思ってそっとカーテンの隙間から覗いてみる。


「藤!お前いつまでも寝てんじゃねえよ!」


いたのは美作くんとアシタバくんだった。


「声でけえよ」


隣のベットから藤くんの声が聞こえた。

シュッとカーテンの開く音が聞こえた。


「―…あれ、藤くんなんでそっちのベット使ってないの?」


アシタバくんが不思議そうに私がいるベットを指さすから私は覗くのをやめて布団にもぐりこんだ。


「お前あそこのベットいっつも占領して誰も寝させなかったのに、めずらしいじゃねーか」


どきん、胸が大きく高鳴る。

―…ここ、藤くん専用のベット、だったの…?


「あー、なんか具合悪いって女子来たから」


「なにッ!女子!?…俺ちょっと介抱してくるわ」


「やめとけデブ」


「ああ!?お前藤、調子乗ってんじゃねーぞ!」


「うっせーよデブ。病人がいんだから出てけ」


「み、美作くん…藤くんの言うとおり今日は出ていこ?」


「…ちっ、しょーがねえな女の子のためだかんな!!」


そういって美作くんとアシタバくんが出ていった。

…藤くん、優しすぎだよ…。

動悸がとまらない。私のこと気遣ってくれたことが嬉しくて、

胸が震える。涙が出そうになる。

ぎゅうっと布団を握って頭まで布団をかぶる。

昼休み終わっちゃうけど、出れないよ…。

藤くん、昼休みが終わったら出ていくだろうから、その時出てこうかな。

そう思って少ししたら昼休みが終わって、藤くんが出ていくのを待つ。

扉が開いて出ていくのを待つけど、いつまで経っても聞こえなくて、

気付いたら授業が始まるチャイム。


「もしかして…もう出ていってる?」


そう思ってそっとカーテンを開けると、椅子に座っている藤くん。


「―…あ、」


声を漏らすと、顔をあげた藤くんと目が合う。


「具合、平気?」


「あ、まだ少し頭痛するけど…大丈夫、です。」


「ならいーけど」


そういって藤くんは欠伸をする。

私は藤くんに目を離さずに、気になってたことを聞いてみた。


「あの…っ、」


「ん?」


「なんで、授業出なかったの?」


「…は?」


「ま、間に合った、よね?」


そう伝えると「あー…」と藤くんは声を漏らす。


「俺いねえとあんたになんかあったとき困るだろ?」


「…え、」


「まあ授業もだるかったし。」


「ご、めんなさい…!迷惑かけちゃって」


「別に。授業サボれて俺はラッキーだし」


そう言って藤くんは欠伸をしながら立ち上がってまたベットにはいろうとする。


「あんたは?まだいんの?」


「え…、っと」


「…まだ具合悪いなら寝てれば」


じゃ、俺寝るから、そう言って藤くんはすぐに寝てしまった。

私は、溢れそうな涙を拭って、静かにベットに入る。











     もう 少し もう 少し 隣に







貴方を感じていてもいいですか?









(20100228)