彼女はいつも、綺麗だった。


「藤ヶ谷」


そう言って俺の顔を覗き込んで笑う顔も。


「ねー、これどうやって解くのかな?」


苦手な教科の問題の答えを必死に考えている顔も。


「藤ヶ谷なんて大嫌い!」


些細なことで喧嘩した時の怒った顔も、







俺にはすべてが綺麗に見えた。







そんな君にいつも俺は(ガキ、みたいだと思うけど)ドキドキしていて。

なんでそんなに綺麗なんだろうと思った。


「き、…あれー藤ヶ谷じゃん」


放課後の教室でぼんやりとそんなことを考えていたら

タイミング良く現れた君。

微笑む姿は、


「…(やっぱり綺麗)」


「…?ふーじがやっ」


「…へ?」


「ボーっとしてる。どうしたの?」


「え、…別になんにもないけど」


「ふーん?変な藤ヶ谷」


そう言ってまた笑った。

その綺麗な笑顔にまた俺は魅せられて、

そういえばさ、なんて君の言葉を遮って

思わず口にしてしまった。


「…って、綺麗だよな」


口にした瞬間君は不思議そうな、すこし驚いたような表情をした。


「綺麗?…わたしが?」


「うん、なんていうか…雰囲気が」


そう真剣な顔で言うと、君はぽかんとして俺を見つめる。




沈黙が教室に流れた。

流石に変なこと言ったかな、と俺が焦って口を開けた時

響いたのは君の声。


「…あは、そんなこと言われたの初めて」


そう言ってふと窓に視線を反らす。

君の横顔だけが視界に映る。


「…嬉しい。ありがとう」


夕日の光を浴びながら君は微笑む。

その視線は俺には向かない。


その視線はまるで、誰かを探してるようで。


「他の人も、そう思ってくれてたら嬉しいなあ」


その言葉はまるで、俺以外の誰かに綺麗だと言ってほしいみたいで。


、」


そう名前を呼ぶと俺の顔を見ずに君はゆっくりと体を窓に向ける。

さっきまで見ていた横顔も見えなくなって、すこしだけ心寂しい。


「…あいつにも、」


聞こえた君の言葉。

俺と同じように心寂しそうだった。


「…あいつ、?」


「あいつも私を綺麗だって思ってくれればいいのに」


秘めていた想いを曝け出すような君の声。


「あいつが私を見てくれればいいのに」


君の溜めていた気持ちが溢れだして


「あいつが好きだって言ってくれればいいのに」


胸が痛い。

こんなにも君の声が切実で、辛そうだから。


「なんで…ッ、」


君の声が、俺の想いを傷つける。


「…―好き、なのに






なんで、私じゃなくて……あの子なんだろうね」


その言葉に、俺はようやく体を動かした。

儚い背中に一歩一歩、近づく。

君はずっと外を見たまま。


「…、


隣に立って、そっと君の顔を覗く。

…―君の顔を見た瞬間、

馬鹿みたいだけどまた、胸がドキドキした。

君の泣き顔すらもあまりに綺麗で…。




涙を拭いもしないで君はずっと外を見ている。

そんな君の視線に合わせるようにゆっくりと外に視線を向ける。

視界に入ったその光景を見て、俺はようやく答えが出せた気がした。




あいつへの想いが


きっと君を綺麗にするんだ




愛おしそうに手を繋いで帰っている「あいつ」を見て

涙を流す君も、たまらなく綺麗だから。



俺は、涙を流す君に慰めようとも、手を伸ばそうともせずに

   ただ、ずっと見つめていた。























が君に 触れれば、

   一瞬で君の 美しさ

      散りそうだったから






















(090724)