全ての始まりは、俺の突拍子のない気持ち。


「太ちゃん!」


なんて楽しそうに笑う君が急に愛おしく感じで。
初めて、衝動的に思ってしまった。


君が欲しい、と。






「でね、太ちゃん…その時さあ、」


君はいつものように頬杖ついて、楽しそうに話をする。
俺が曖昧に返事をしてたらすこしだけふくれっ面で「聞いてるの?」なんて拗ねるんだ。
君が、前々からしてた何気ない行動なのに、今は俺の胸をときめかせる。
可愛い、そう思ってしまう。
俺にしか話さない秘密や悩み。
俺に見せる安心した笑顔。
ずっとずっと、何も感じてなかったことなのに。
なんでこんなにも今は俺の心を舞い上がらせるんだろう。


「太ちゃんの馬鹿ー。私の話し聞いてないんだから!」


「あーもう怒るなよ。な?」


「…じゃあジュース奢ってね!」


「は?なんでだよ…。まあいいけどさ」


「ありがとー!太ちゃん大好き〜」


ああ、ほら君は気付いてる?
何気なく言っただろうその言葉が、どんなに俺を惑わさせているのか。
今すぐにでも気持ちを伝えて、抱きしめてしまいたくなる。


、」


「あ、宏光!」


俺の声をかき消すように、教室内に響いたのは嬉しそうな君の声。
俺の声は君の耳には届かなくて、君は愛しいあいつの元へと駆け寄る。


「宏光、終わったの?」


「あーまあ…。つーかまじ説教長かったんだよな…。」


「あはは、お疲れ様〜」


俺には見せない幸せそうな笑顔。
俺には出さない、照れた表情。
俺には向く事のない…恋心。


「……俺、なんか邪魔そうだし、帰ろっかな!」


「え?太ちゃん帰っちゃうの?」


「だーから、いい雰囲気の2人も俺がいたら色々できないでしょ?」


「な…ッ!太ちゃん!」


「まあそれも一理あるよなあ」


「ッひろ!」


顔を真っ赤にして俺と北山を睨む君はやっぱり可愛くて。
俺と同様の、愛おしい眼差しで君を見つめる北山は、やっぱり君を大切にしている。
そんな二人が俺を苦しくさせるんだ。


「ってことでじゃーな!、北山!」


2人の返事も聞かずに俺は教室から逃げるように足を進めた。
なにもかも、嫌なんだ。
君が北山に向けるありったけの愛情も。
北山が君に向ける幸せそうな微笑みも。
叶わない恋心だと分かっているのに…。

どうしても、君が欲しくて堪らない。

何が、いけなかったんだろうか





「…太、ちゃん…ッ」


君が泣きついてきたのは一週間後。
震えた声で、体で俺に縋りついてきた。


「宏光、が…知らない、ッ女の人と…歩い、てた…」


―私、宏光に捨てられるのかな

そう言って君は泣き崩れた。


「…、」


背中をさすって君を慰める一方、俺は数日前の北山の言葉を思い出していた。


『なあ藤ヶ谷、俺さ…』


本当は分かってるんだ。
全て、本当の事を。
なんてことはない。
真実は北山の君への大きな愛情。


に指輪、プレゼントしてぇなー…なんて思ってるんだよな』


照れたような笑顔を見せる北山は確かに君を誰よりも想っていた。


『高校卒業したら、本気でと結婚したいんだよな…。だから予約の指輪、』


俺って重いかもなー、なんて笑ってた北山は本当に君を愛してるってわかってるんだ。
なるべく君を喜ばせたいって、友達の女の子に頼んで女子が貰って嬉しいようなデザインの指輪探し回って。
今日だって、今頃はまだ店を回ってるに決まってる。
それを伝えればいいだけの事。
そしたら君は笑って北山の元へ行くんだろう。
前よりも、もっともっと愛し合って。
俺の入る隙なんて一ミリも無くなるんだ。


…俺、北山から聞いてるよ」


そんなのは狂いそうになるほどに嫌だった。
だから俺は…


「北山、に飽きたって言ってたんだ」


最低な男にでも成り下がろう。


「だから、はもうすぐ北山に振られるんじゃないかな?」


「たい、ちゃん」


「―だから、俺にしなよ」


俺は精一杯の優しい声で囁いた。
君はまた一粒、涙を流して俺を見つめる。


「俺、ずっとずっとの事が好きだったんだ」


「…私は、宏光…が」


「北山はを悲しませてるじゃん。俺だったら、の事幸せにできるからさ、」


脳裏に2人の幸せそうな笑顔が浮かぶ。
痛んだ胸も、今にも零れそうな涙も知らないふりして、震える肩を引きよせた。


「太ちゃん…ッ」


が欲しくて欲しくて、…堪らないんだ」


無理矢理重ねた唇に、君は抗うことなく震える腕で俺の背中に手を回した。


「…太ちゃん…ッ…助けて、」


酷く掠れた声で、絶望の淵にいるかのような顔で、君は俺に言った。
「助けて」その言葉を俺が言わせたんだとわかっていても。


「…いいよ、」


頷く他はないんだ。
激しくキスして指を絡めて愛撫して、
俺たちが一つになった時、君の携帯が鳴り響いたなら、
戸惑う君をまた、快楽の波に陥れて俺の元へと引きずり込もう。
真実が分かった時、君に心底嫌われて蔑まれようとも構わない。
俺が君を一瞬でも手にいれられるたった一つの道なのだから。




Was everything wrong ?




俺の気持ちも
想いも
そして過ちも
全部無くなれば、
俺はこの痛みから抜け出せるのだろうか
…嗚呼、もう戻れない




(090419)









***


叶わない愛情はやがて狂気に変わるのかもしれない

そんな感じを書きたかったんです;

太ちゃんがすごく醜くて最悪ですけど…

前に書いた仁くんの小説と軽く似てるような気もします

気分が下がる小説で申し訳ないです…!