むかつく。むかつくむかつく。

ほんっとうにむかつく!




Because it loves



「宏光!私もう別れるから!あんな奴!!!」


今にも暴れだしそうな雰囲気で叫んでるのは

いつものように呆れながら聞いてるのは北山宏光。

はいはい、と適当に相槌を打ってパックのカフェオレを飲んでいる。


「宏!聞いてるの!?」


「つーか毎回毎回同じこと言われても…。俺も聞くのめんどくせーし」


その冷たい態度には目に涙をためて馬鹿宏!と顔を手のひらで覆った。

それもいつもどうりで慣れている宏光は呆れたように溜息をついた。

どうせ涙はすぐに引っ込んでまた騒ぎ出すのだ。

いちいち構ってられない。


「毎回俺に愚痴るのやめてほしいんだけど」


呟いてもは顔をあげない。

いつもはだって!と口論してくるのに。

口論の代わりに小さな嗚咽が聞こえた。


「は?まじ泣いてんの?ちょ、


予想外な展開に宏光は飲み終わったパックをゴミ箱に投げ捨てての背中をさする。


「ッ宏光もあいつも嫌い…ッ!」


「あー!いいから泣くなよ!俺が悪いみたいだろ!」


当の本人はどこだよ!と宏光が軽く舌打ちをした時ばたばたと騒がしい足音。

見れば困り顔をして走ってくる藤ヶ谷太輔。


、!」


泣いてるに太輔は慌てて手を伸ばす。

は涙で濡れてる目で太輔を睨んでどっか行って、と手を振りはらった。

慌ててる太輔と泣いてる

宏光は面倒臭そうに頭を掻いた。


「お前今度は何したんだよ」


「俺は何もしてないって!」


ますます困り顔で太輔は言う。

そんな太輔の言葉を聞いては立ち上がった。


「ッ太輔、後輩の女の子に告白されてにやにやしてたじゃん!」


「え、見てたの!?じゃなくて俺にやにやしてなかった!」


「してたもん!可愛かったもんね!私より素直そうだし!!」


「違うって!しかも俺断った!」


「知らない!太輔の馬鹿!嫌い!もう別れる!」


、昨日「太輔大好き…!ずっと傍にいてね」なんて可愛い事言ってたじゃん!」


「気が変わった!!太輔なんていないほうがずっとまし!」


「はあ!?なんだよそれ!俺が心配でここまで全力で走ってきたんだけど!?」


「何よ!もとはと言うと太輔が悪いんでしょ!?」


どんどん声を荒げて言い合う2人にただ見てた宏光も慌てて声をかける。


「お前ら落ち着けって、」


「〜…ッ!大っ嫌い!太輔なんて嫌い!別れる!」


「分かった!じゃあもう別れるからな!」


「勝手にすれば!馬鹿!」


は太輔から顔を背けて宏光の腕に絡みつく始末。

太輔は太輔でから背を向けている。


「…まじ勘弁しろよ」


宏光は呆れたように太輔と腕に絡みついてるを交互に見た。

依然、は嗚咽を漏らして泣いている。

太輔も珍しく引き下がらない様子。

宏光も、この恋人同士の喧嘩にいつも巻き込まれているとはいえ、

今日はいつもより面倒臭いし長引きそう。

長々と巻き込まれるのは御免だ、と宏光が心の中で思った時だった。

「先輩ッ」なんて空気をぶち壊すほどの可愛い声で太輔に近づく女生徒がいた。

太輔は「は?」と小声で呟き眉に皺をよせ、

は女生徒をちらりと見て「さっき太輔に告った後輩」と

涙声交じりに呟いた。


「先輩、さっきのやり取り、聞こえちゃったんですけど…。

先輩と別れてくれたんですよねッ?」


嬉しそうに太輔の前できゃぴきゃぴと話す後輩。

どうやら、最後の別れる、と言うやり取りだけ聞いてたのだろう。


「さっきは彼女がいるから断ったけど…今、別れてくれたんですよね?

私、嬉しいです!ありがとうございます!!」


どうやら彼女は自分と付き合うために太輔がと別れたのだと思っているようだ。

それほどまでに自分に自信があるのだろうか。

太輔は引き攣った笑顔をうっすらとだが浮かべている。

宏光に関してはうっとおしそうに後輩を睨みつけている。

宏光は今この場が余計複雑になるのは面倒臭いと思っているのだ。

何が面倒臭いって、自分が余計巻き込まれて曖にますます縋られるからだ。

は宏光の肩に顔を埋めて腕に先程より強くしがみついている。

そのまま無視をしておくのかと思えばちらりと度々2人のほうを盗み見ている。

その表情が悲しそうなのが宏光には丸見えで、

素直になれば事がすぐ解決するのに、と宏光は溜息をついた。


「太輔先輩、場所を移しませんか?ほら、なんだか邪魔しちゃいけないですし…。」


後輩は悪気もなさそうに太輔の腕を引っ張る。

宏光たちがいい雰囲気とでも見えるのだろうか。

どう見たって泣いてるを慰めている光景にしか見えない。

太輔は焦ったように声を漏らしながら後輩のペースに引き込まれている。

流石の太輔も今にもキレだしそうな表情。

宏光はイラつきを包み隠さず舌打ちをして低い声で「あのさあ、」と声を発した。

その時宏光の腕の中にいたがするりと抜けていった。

宏光はその背中を見つめてあー疲れた、と微笑んだ。

その行動がいつも仲直りのきっかけ。

そして曖が素直になる印。

は2人の元へ行くと後輩の腕を掴んだ。


「手、離して」


「…はい?」


「太輔に触れてるその手、離してって言ってんの」


「元カノさんが何ですか?邪魔しないでくださいよ」


ね、先輩?なんて上目づかいで見上げてきた後輩も視界に入れず

太輔はを真っ直ぐ見ている。

その口元が少しだけ嬉しそうなのも、後輩は気がついてない様だ。


「太輔は私の彼氏なの。あんたのじゃない。分かる?」


「は…、何言ってるんですか、」


「太輔、」


「…ん、」


「太輔の彼女って私だけでしょ?」


太輔が答えを言う前には微笑んで唇を重ねた。

がゆっくりと唇を離すと、太輔はうん、と頷いて引きあうように再び唇を重ねた。

当然、泣きながらその場を走り去った後輩を宏光はちらりと見て、

未だ唇を重ねる2人に溜息をついた。


「どうせ仲直りするなら俺を巻き込むなっての」


呆れたように笑った宏光は彼女欲しー、と呟いた。


Are you angry?

(090405)