PM16:56

部屋でのんびりと雑誌を読んで寛いでいると隣の部屋から聞こえる喘ぎ声。


「またヤってるし」


はぁ、とため息をついてその甲高い声をかき消すようにコンポの音量を大きくした。

毎度毎度、自室に男を連れ込んで行為をするのは止めてほしい。

姉は驚くほど遊んでいた。

実際、姉が彼氏だと言って家に連れてきた男は確かもう8人見た気がする。

派手な見た目と自分勝手な性格。

親も何も言えずにいた。

それは私も同様で姉に逆らえば逆切れして殴られるのがオチだ。

別に男を連れてきてもいいし何度ヤろうが関係ないけれど声がこっちにまで聞こえてくるのは気分が悪い。

なんで部屋が隣なんだろう。

そのせいか、ごくたまにふざけて彼氏が入ってきたりもするのだ。

はっきり言って私は姉みたいに遊んでいるわけでもない。

見た目だって普通だし、誰とでもヤりたいわけじゃない。

だから姉も、姉が連れてくる彼氏も存在が不愉快だ。

今いる彼氏もきっと先週連れてきた人とは違う人だろう。

前の男は姉が出かけたのをいい事に私の部屋に押し入って私を襲おうとしてきたのだ。

上手く逃げれたけど二の舞はごめんだ。


「…逃げよ、」


丁度今は親がいない。

クラスメイトの所にでも逃げようか。

コンポもそのまま、携帯と財布をポケットに突っ込んで部屋を出た。


「…あ、妹?」


びく、と肩がはねた。

振り向くと金髪の男と男の腕に絡みついてる姉。

タイミングが悪い。今行為を終えて帰るとこだろうか。


「…こん、にちわ」


「お前と違っておとなしそうじゃん」


口角をあげて笑う男は今まで見た姉の彼氏の中でも一番かっこよかった。


「地味の間違いなんじゃない?ってか早く行こう、宏光」


宏光、そう呼ばれた男の人はよく見ると知っている顔だった。

―北山宏光。

2つ上、姉と同い年の先輩だ。

かっこよくて確か後輩からも人気…の先輩だったと思う。

でも苦手な部類には変わりないので先輩を急かす姉に少し安心した。

はやくどっかいって、心の中で呟くとふいに着信音が鳴り響く。

私の携帯では、ない。

ちらりと姉のほうを向くと綺麗にネイルされてる指で通話ボタンを押していた。

私と先輩をそっちのけで高い声で話をする姉。

相手は漏れてくる声から男だとわかった。


「今?大丈夫。ん、今から行く〜」


姉は電話を切って用事出来た、と言って先輩を置いてさっさと飛び出てしまった。

唖然としてる私とめんどくさそうに欠伸する先輩。


「す、すいません…。姉が、」


一応頭を下げて謝るといーよ別に、と先輩が欠伸交じりに言った。

これで帰ってくれるだろうか、と先輩の顔を見る。

…先程までこの男は自分の姉と体を重ねていたんだと考えると少し嫌な気分に陥る。


「…なんで姉と、」


ふいに呟いてしまって言葉を遮る。

やばい、なんて思っても先輩はもう私の顔を凝視していた。


「…なんで姉と、何?」


「い、や…」


「…なんであんな遊んでて男なら誰でも良いって感じの姉と付き合ってんのかって?そう言いたいんだろ?」


「え、!いや……はい、」


ずっと凝視する先輩の視線に耐えられなくなって少し俯く。


「なんで、って理由はねぇけど。あー…顔がタイプだったから?」


「 それ、だけ…ですか?」


「女とヤるのに理由いらねーと思うんだけど」


ダルそうに私を見てもう一度頭を掻く。

なんて最悪な男なんだろう。


「…好きだからとか、愛しいからとか、色々ないんですか?」


「まじ真面目だな」


くく、と先輩は笑った。

さっきはかっこいいと思った笑顔も今は馬鹿にされてる感じでむかついた。


「妹ちゃんもヤってみたら分かるんじゃね?俺結構上手いけど」


耳元で囁いてきた先輩に完ッ全にキレた。

私はにっこり微笑んで口を開いた。


「冗談、」


「ん?」


「あんたみたいな最低男こっちから願い下げ。幾ら上手くたって関係ないしあんたとヤったら女が廃るわよ。見縊らないで」


一気に言ってはぁ、と息をつく。

ぽかん、と口を開けてる目の前の男は明らかに滑稽。

すっきりして自分の部屋に戻ろうと踵を返したら腕を掴まれた。


「…なんですか、離して、」


「……ッふ、」


「へ、?」


私の腕を掴んだまま先輩はしゃがみ込んで爆笑しだした。


「…ッ、はー!面白い!!お前最高だな」


「(冗談で言ったわけじゃないのに)」


「あー…惚れた」


「そうですか、…って、は?」


先輩は腰をあげたと思ったら私に、 キスしてきた。

何故か腰が抜けてその場にへたり込む。(だ、って…ファースト、キス)

真っ赤になって睨みつけると先輩は今までに見せた笑顔とは違う、本当に楽しそうに笑った。


「これからは、お前に会いにここに来る」


「…え?」


「絶対惚れさせるから、覚悟しとけよ?」


不敵に笑って。

視線を捉えて。

先輩は満足そうに帰って行った。


The case took an unexpected turn


(あ、あんな男、絶対惚れない!)(…なんて言いながらも、胸の高鳴りが止まらないのは、何故?)