私の求めていた執事はこの方ね





「はい、お嬢様」「私がしますので」「かしこまりました」

…なんて執事は退屈するわ。

もちろん、私の為に尽くしてくれるのはとても嬉しいし感謝してるわ。

…けれど、私は退屈しない毎日を、執事と過ごしてみたいのよ。

そんな時見つけた、私の願いを叶えてくれそうな方を見つけましたの!

彼は私の心を満たしてくれるかしら?




「豆柴さん、此処が私の寮よ」


「す、っげぇ…」


豆柴さんはぽかん、と軽く口を開けて寮を見上げる。


「私の寮、太陽<ソーレ>よ」


「へぇ…。」


「私の部屋に案内するわ。」


「あ、ああ…。なんか、眼鏡うどんのとことはすげぇ違いだな、」


「…めがねうどん?」


「ああ、東雲メイのことだよ」


「面白いあだ名を付けるのが流行ってるのかしら?豆柴さん」


「そんなんじゃねぇけどよ、」


「そうかしら?…まぁ、行きましょうか。」


未だ寮を見て驚愕の声を上げる豆柴さんの一歩前を進む。

あら、そういえば執事として躾をしなければいけなかったわね。


「豆柴さん、」


「なんだよ、ってかその呼び方止めろよ…!」


「扉、開けてくださるかしら?」


「…はぁ!?」


「執事としては当然でしょう?」


「それくらい自分でやれよ…」


溜息を付いて頭を掻く豆柴さん。

私が見つめていたらもう一回溜息をついて扉を開けた。


「ほら、これでいいんだろ?」


「―――…予想どうりの方ね」


「は?」


「あなたのおかげで退屈しないですみそうね。嬉しいわ。」


「…変な奴、」


笑うと豆柴さんは軽く首を傾げて寮へと入る。

また驚愕の声をあげる豆柴さんが面白くてもう一度笑う。

私が求めていたのはこの方ね。

私に反抗して、嫌そうに顔を歪める。

私の言った事すべてに従うなんて面白くないものね。


「…理人が以前言っていたわ」


「は?何が」


「真っ直ぐに伸びていてゴールが見える迷路と、曲がりくねっていてゴールするのが困難な迷路。」


「…それが?」


「私は、物事が簡単に進むよりも少し壁があったほうが好きみたいなの」


「…何がいいたいのかわかんねぇんだけど、」


「忠実に従うよりも、反抗して簡単には私に尽さない執事が良いってことよ」


「だから俺を選んだって事か?」


「ええ。ずっと捜し求めていた人材よ?ランクが高い人ほど忠実だもの。見習い執事くらいが私にはぴったりかもしれないわ」


「本ッ当、変なお嬢様だよな…。」


「ふふ、そんな事言う執事、貴方だけよ」


「悪態でもつかねぇときっと俺やっていけねぇよ…。」


「まあ、2人で頑張って行きましょう。さ、部屋へ行きましょう」







「此処が私の部屋よ」


「…やっぱすげぇな」


「で、豆柴さん、貴方はこの部屋ね。」


「…おい、」


「?何か不満でもあるの?それじゃあこっちの部屋を、「そういう問題じゃねぇよ!」…じゃあなんなの?」


「なんで俺とお前が同じ部屋なんだよ!」


「執事は常にお嬢様の傍に居なくてはならないのよ?部屋だって同じで当然だわ」


「〜〜ッありえねぇ、」


「…これは規則だから、どうしようもないわ」


「はぁ!?まじかよ…」


「執事になりたくて来たのでしょう?」


「…わかったよ」


「部屋は貴方が決めて構わないわよ?どこがいいかしら」


「…あんたの部屋と一番離れてる所」


「じゃあ此方でどうかしら」


「あー、此処でいい。」


「それじゃあ、今日はゆっくり体を休ませて。」


「ああ。…ッ、じゃなくて!」


「…如何しましたの?豆柴さん」


「それ、豆柴さん!その呼び方止めろ!」


「お気に召してないのね。…じゃあ豆柴君?」


「大差ねぇだろ!」


「そうねぇ…。そういえば貴方の苗字を聞いてなかったわ。」


「あ?俺の苗字?柴田。柴田剣斗だよ」


「…しば、た?」



『お嬢様。私は柴田理人と申します。…宜しくお願いします』



にこり、と笑って頭を下げた理人の姿が頭を過ぎる。


「…嘘」


「は?なにが?」


「貴方…、理人の弟だったの?」


「あぁ、そうだよ。あいつは隠してるみてぇだけど?」


「そう…。」


「……あんたなんか顔色悪くね?」


「そうかしら、?」


「そうだよ!もういいからさっさと休めよ!」


豆柴さんは私の腕を引っ張って私の部屋へと連れて行く。

倒れ込むようにベッドへ身を沈めれば豆柴さんは私のおでこに手を当てた。


「…熱、は無いみてぇだな」


「心配なさらなくて結構よ…。私は、大丈夫だから」


「顔色悪い奴が強がってねぇで休んどけって。多分疲れたんだろ。」


「まめ、しばさん」


「なんだよ」


「ありがとう…。」


「いいからさっさと寝ろって」


豆柴さんは恥ずかしそうにそっぽを向く。

真っ白な天井を見つめていると瞼が落ちてくるのを感じて私は眠りについた。











「…ん、」


目が覚めると窓から見える外は真っ暗で、時計を見ると夜中の3時。


「…豆柴、さん?」


横を見ると豆柴さんがベッドに顔を埋めて寝ていた。

ずっと付いててくれたみたい。


「優しいのね。…本当に」


傍にあった上着を掛けてあげて豆柴さんを見つめる。


「…理人の…弟」


顔にかかっていた髪の毛を手で軽く払った。

似てる。そう思った。


「なんですぐに、…気が付かなかったのかしら」


理人と剣人。

兄と弟。


「私は…理人とは切っても切れない縁で結ばれているのかしらね」


くす、と笑うと月明かりで照らされた剣人の顔がより一層はっきり見える。


「    」


呟いた声は静かな夜の空気に響いて消えた。



(090117)





まるで  流  れ  星  のような