私を満たす執事が欲しいわ
誠実に仕事をこなして、お嬢様に従って順序正しく接する。 なんて、なんだかつまらないと思いません? 私にはもっと刺激が欲しいの。 けれど、そんな私の心を満たす執事は居ないようね。 「貴方、」 「はい!なんでしょう、お嬢様」 「今日限りで私の執事、お止めになって結構よ」 「え!?…そんな、」 「父上には了承を得ていますの。ごめんなさいね。父上の所へ行って御礼を貰って下さるかしら?」 「ですが…!」 「貴方が悪い訳じゃないわ。…私の執事として、私の最後の願いを聞いて。…お止めになって。」 「…かしこまりました」 「ありがとう」 こつ、と執事がゆっくりと立ち去っていく。 「様、またですのね」 「あら、リカさん。…彼も忠実で、良い方でしたわ」 「じゃあ何故ですの?」 「要は、人それぞれの捕らえ様よ」 「捕らえ様…ですか?」 「ええ。あの方は何も悪くないわ。私の身勝手な行動よ」 そう言って申し訳無さそうに瞳を伏せたのは。 世界でも上位3番以内には入る、大手企業の一人娘。 両親に愛され、聖ルチア女学園へと入学。 穏やかな雰囲気と落ち着いた物腰。 聖ルチア女学園へ通う誰しもの憧れともいえる存在。 学園長、ローズや学園最高権力者ルチアでさえも一目置いているほどだ。 1つだけ欠点があるとするのなら、お嬢様一人に一人ずつ付く執事。 彼女は入学当時から執事を何度も変えている。 それでも周りの人に追及されずに居るのは彼女の人柄、と言った所だろう。 「…そういえば、理人が新たに執事に付いたと聞いたのだけれど…。まだその方はお見えになってないのね」 そう言ってが周りを見渡すとリカは溜息を付いて話を始めた。 「様は御休みになっていましたから知らないでしょうが、とても大変な日々でしたわ。」 「あら、どうしてかしら?理人が付く位だからどんな方かと楽しみにしていたの」 「…この学園には似合わない人ですわ」 その言葉にとてもは興味を引かれた。 は今まで座っていたソファから立ち上がり扉へと進む。 「様、何処へ行くのですか?」 傍に居た泉が問い掛ける。 「理人と、…そのお嬢様に挨拶に」 「様、関わらないほうが良いですよ!」 「貴女たちの言うような方でしたら、関わるのは止めるつもりよ。」 そう言って扉を開いた。 後ろから聞こえる声を掻き消すように扉を閉めると少し居遠くでヘリが着陸をしていた。 「あら、ちょうど良かったかしら」 ふふ、と笑って足を進める。 「理人」 「お嬢様…!今日は来てたのですね」 「ええ。父上ったら少し咳をしただけで入院だなんて騒ぎ出すのだから。大袈裟よね」 「愛されてる証拠じゃないですか」 「そうかしら?」 「…その人は?」 ゆっくりと視線を変えるとヘリから降りてくるメイ。 「あら、この方なのね。理人のお嬢様は。」 「はい。…メイお嬢様です。メイお嬢様、この方は…、」 「よ。メイさん、お見知りおきを。」 「は、はい…。」 「まさか理人が他の方の執事に付くとは思っていなかったわ」 「あ、あの〜…、2人はどんな関係?」 「お嬢様は私が以前使えていた方です」 「え…!?そうなんですか?」 「ええ。理人は私が認めた唯一の執事よ。メイさん、理人は良い執事でしょう?」 「はい…。でも、なんで理人さんはさんの執事を止めたんですか…?」 「…少し色々あったのよ。」 「…色々?」 「理人は驚くほど良い働きをするし、誰よりも良い執事だったから惜しかったのだけれど。」 「申し訳ありません」 「理人は悪くないとあの時も言ったじゃない。謝る必要は無いわ。」 「…かしこまりました」 「…あら、このままじゃ遅れてしまうわ。引き止めてしまってごめんなさい。」 「メイ様、行きましょう」 「うん…。」 3人で校舎へと進む。 理人が扉を開けてとメイに声をかけた。 「どうぞ。」 「…ごきげんよう」 メイが入ってきたと同時に生徒は敵対の視線を向ける。 メイに数歩送れてが姿を現す。 「皆さん、ごきげんよう」 メイに鋭い視線を向ける生徒ににこり、と微笑みかけた。 何かリカたちが声を上げようとすると、上から声が降って来た。 「なーにがごきげんよう、だよ。似合わねー」 「豆柴!?なんでここに…」 「…まめしば?」 そうが呟くと階段から降りてきたのは明るい茶髪の男。 話を聞けばリカの見習い執事。 豆柴こと剣人とメイ、リカ、青山が話している途中は黙ったまま剣人を見つめていた。 「…お嬢様?」 不思議に思い声をかけたのは理人。 はゆっくりと笑みを作り理人を見た。 「理人、…居たわ」 「…もしかして、」 「ええ。―…リカさん、」 「はい、様…。」 「その見習い執事、私の執事にしてくださる?」 「…は?」 そう声を上げたのは柴田剣人。 微笑むを横目にメイに誰、と耳打ちをする。 青山は先ほどと同じように剣人の頭を殴って説明を始める。 「…ってことは、世界でトップレベルの大富豪のお嬢様?」 「そんな事無いわよ?至って皆さんと同じだわ。」 「で、なんでそんなお嬢様が俺を?」 「そ、そうですよ様!もっとランクの高い執事を…!」 「いいえ、私はこの方がいいわ。」 「ですが…!」 「私の元で執事の修行をすればいいわ。今私、執事が居なくて探していたのよ。…どうかしら?」 「…べ、つに俺はいいけど、」 「見習い執事が様に付くなんて考えられませんわ!」 「お願いよ。私が責任を持ってこの方を立派な執事に育てますわ。…異存があるかたは、いらっしゃるかしら…?」 反対をする声は一気に静まり返り、戸惑った表情を皆浮かべた。 リカを見つめるとリカは納得が行かない様子で承諾をした。 「ありがとう。リカさん」 「様の頼みですから…。ですが、その代わり私の指導も彼には受けさせてください。」 「ええ。わかったわ。」 「それでは、今日は指導はいいですわ。色々なさることもあるでしょうし」 「リカさん、感謝するわ。…私は。これからよろしくね。豆柴さん」 「俺はそんな名前じゃねぇよ!剣人だ剣人!」 「豆柴さん」 「ッじゃなくて、」 「…様は、認めた執事以外は名前では呼びませんのよ」 「は?」 「様が認めたのはたった一人…、理人様だけですわ」 「理人を超えられる執事になれるように私と共に頑張りましょうね?豆柴さん」 「…やってやろーじゃねぇか」 2人の執事とお嬢様の生活が始まった。 |
やっと見つけたわ。理想の執事