友達についていって見に行った、野球部の試合。 別に興味無いって感じで見てたけど、あの顔が、姿が、笑顔が、頭から離れない。 「岡田、優也…。」 グランドで野球をしてる岡田君を見つめて、名前を呼ぶ。 ああ、愛しい。 名前を声にするだけで、心に広がる。 好き…。 試合で見た岡田君は輝いてて、かっこよくて、本当に目が離せなかった。 不敵な、口角を上げた笑みが、必死に走り回る姿が、時折見せる子供のような微笑みが、 私の頭をぐるぐる回る。 貴方の声が、姿が、すべてが私を埋め尽くす。 ―――――……自分でもわからないほど岡田君を好きになる。 私の心の中には貴方でいっぱい。 「あ…、練習終わっちゃった…」 練習が終わったのがわかると席を立ち教室を出る。 もうこれが日課。 そして、このまま何もなくおわって行くんだろうな。 最後の最後、卒業するまでこのまま。 お昼、いつも一緒に食べていた友達は皆予定が合わなくて、自分の机で1人で食べてた。 塔子ちゃんが誘ってくれたけど、なんとなく1人で食べたい気分だったから断った。 岡田君は今ごろ屋上でパン食べてるのかなあ、とか思いながらボーっとしてた。 「なあ」 「――…(いー天気)」 「なあ、」 「――…(ぽかぽかするなあ)」 「おい!」 「はい!?――…お、かだくん」 私の目の前に立ってるのは紛れもなく岡田君、で。 話し掛けられたことは初めてで、驚きと喜びがこみ上げてきた。 「何ボーっとしてんだよ」 「や、そのごめん…。ど、どうしたの?」 変や奴、と口角を上げて私の前の席の椅子に座った。 「お前が1人だったから珍しいなと思って。」 「そうなんだ…」 「ってかお前それ自分で作ったやつ?」 「え、うん」 私の弁当を指差していた岡田君の手はそのまま私のから揚げをとって口に運んだ。 「ちょ、不味いよ…!?」 「これ、すげぇうめぇじゃん!」 「え?」 「お前料理上手いんだな」 今度は卵焼きを食べて、上手い、と言ってくれた。 心臓がすごいドキドキしてて岡田君に聞こえるんじゃないかって思った。 「お前いつも俺たちの練習、見てんだろ?」 「え…!?」 「そうだろ?」 「…う、ん」 気づかれてないと思ってたのに本人にばれてるなんて…。 どうしよう、気持ち悪いとか思われたかな、。 「今日からはちゃんと目の前で見ろよ」 「え」 「毎日グランドまで来て、目の前で見ろよ」 「なん、で」 私にそんな事言ってくれるの?そういうより先に岡田君は立ち上がった。 「ぜってぇ来いよな。」 にっ、って笑って扉まで歩いて行った。 「それと、」 岡田君が振り返った。 「明日から俺の弁当も作って来いよ」 私の返事も聞かないで岡田君は教室を出て行った。 …う、そ。 岡田君が去って行った後も廊下から目を離すことが出来なかった。 自惚れて、いいのかな。 今日「からは」、明日「からは」…。ずっと見に行って良いんだよね?ずっと作って良いんだよね? このまま何もなく終わっていくんだろうなって気持ちは吹っ飛んだ。 グランドからこの教室はこんなに遠いのに、私ってわかってくれた事がすごく嬉しい。 加速する、 (この気持ちも、幸せも。) (080901) |