「ありがとう」

彼女は戸惑った表情を見せた後、ふわりと笑った。(この笑顔が、好き)
でも、そう言った彼女の口がやけにゆっくり動くように思えた。

「ごめん、ね。」

うん。分かってた。君の返事なんて。だってずっと見てきたから。
はとても優しいから、俺が少しでも傷付かないように言葉を選んで話してくれる。
その優しさが好きで好きでたまらない。

「太ちゃんは、友だちとしか見れないの…。」

「うん。」

「驚いたけどね、すごく嬉しかった…。」

君を好きになったのは今年の春。
席替えした時隣になったと話していると好きになった。
授業で当てられて答えられなかった時、しょうがないなあ、って呟いてノートの切れ端に答えと一言何か書いてくれてた。
「次は自分で考えてねー」とか「もう寝ちゃ駄目だよ」とか。全部のメッセージすべてが愛しかった。
俺が居残りになった時「馬鹿だなあ」とか言いながら手伝ってくれる優しさが好き。
最後の部活の大会で負けた時、「頑張ったね。お疲れ様」って泣いてくれた。その涙も愛しくて。
だから、気がついてたよ。が別の男を見てたこと。

「本当にありがとう。」

は少し涙ぐんでた。
俺の為に泣いてくれるそんな君が好きなんだよ。

「返事くれてありがとう。」

「うん…。じゃあ、ね」

「うん」

君の小さくなっていく背中を見てると視界が歪んだ。
頬がなんか暖かい。
指で頬を触ると、泣いてた。
分かってた。が俺を振る事なんて。
わかってたのに、涙が溢れる。

『太ちゃん』

の笑顔が浮かんでは消えて、最終的に別の男と微笑みあってる姿が浮かんだ。
もう、もう忘れるから。
の事は、諦めるから。
だから、涙を流す事を許して、

その1ヵ月後、の隣には、別の男。(これでよかったよな)(君が幸せなら。)