仕事が終わって家に帰ると、家に明かりがついてた。

「(・・・嗚呼。また来たのか)」

連絡も無しに勝手に家に上がりこむあいつの行動に慣れてしまった。
きっとこの扉を開けたら「遅い」って溜息を漏らすのだろう。

「仁、」

「遅かったじゃん」

「仕事、忙しかったの」

「男じゃねぇの?」

「違うから」

そう言って上着を脱ぐ。

「いつからいたの?」

「あー、3時間前ぐらい」

その言葉に相槌を打って髪を解く。
どうせ、他の女の都合が会わなかったんだろう。

「ご飯、いる?」

「・・・

後ろからいきなり抱きしめて肩に顔を埋める癖も
髪をゆっくりと撫でる癖も、全部仁だって思わせるのに、
この甘ったるい女物の香水がいつも私の心を覚めさせる。
私の大好きな、仁の香水の匂いがしない。
今の仁からは甘ったるい匂いとタバコの匂いしかしない。

「…離して」

そんな匂い嗅ぐだけで気分が悪くなる。
気分が悪くなるから嫌なんじゃなくて、胸が痛むから嫌なのかもしれない。
こんな仁に私はまだ恋をしているという事実がとても悔しい。

「なあ、ヤっていい?」

「シャワー、」

「そんなの良いじゃん」

「嫌よ」

「なんで?」

「他の女の匂いがする仁となんて、ヤりたくない」

そういうと口角を上げた。(いつも見る表情)

「だから離して」

「無理」

その言葉を合図に仁は私をベッドへ運ぶ。
今日もこんな匂いに包まれて夜を過ごすのね。

「愛してる」

そんな言葉、聞き飽きたわ。
中身の無い言葉なんて空しいだけよ。
ねぇ、愛してるなんて言葉いらないから、たった1度で良いわ。キスしてよ。